「メンヘラ」と呼ばれた経験のある人が「不安型愛着」ということばを知ると、同じものに二つの名前がついているのではないか、と思うかもしれません。メンヘラと愛着スタイルの関係を調べるときの入り口になる疑問です。結論から言えば、二つは同じものではありませんが、重なる部分はあります。メンヘラは、恋愛で感情が重く見える人に向けられる俗語。不安型愛着は、心理学が近しい相手との関わり方について説明するときのパターンのひとつです。この記事では、実際に開いて確認できた資料だけを使い、二つを並べて比べます。メンヘラは心理学の用語ではなく、不安型愛着は診断名ではありません。
俗語と研究概念は、役割が違う
俗語と研究上の概念は、そもそも別の目的のために生まれています。メンヘラは日本のインターネット文化から出てきたことばです。日本語版Wikipediaは、何らかのメンタルヘルスの問題を抱えている人、または抱えていると思われる人を指す俗語で、もともとはネットスラングだったものが、いまは一般化していると説明しています。Weblioの実用日本語表現辞典も、メンヘラは学術用語ではなく通俗的な表現で、侮蔑的な意味合いを含むため注意が必要だと述べています。
いま「メンヘラ」ということばは、恋愛のなかで感情が重く見える人、たとえばよく心配する人、こまめに連絡を確かめる人、安心させてほしいと何度も求める人に向けて使われることが多いようです。これは、その人がどう見えるかの描写です。多くの場合、その人自身よりも、言っている側の受け取り方を表しています。
これに対して不安型愛着は、発達心理学や社会心理学の流れのなかにある概念です。近しい人との関わり方を説明するために研究者が使うパターンのひとつで、文献の蓄積があり、定義をめぐる議論もあり、限界もわかっています。
愛着理論の基本を、五分で
愛着理論をつくったのは、精神科医で精神分析家のジョン・ボウルビィ(1907〜1990)です。乳児は少なくとも一人の主な養育者と親密な関係を持つ必要があり、その初期のやりとりのパターンが、後の「内的作業モデル」、つまり相手は頼れる存在か、自分にはどんな価値があるか、についての予測を形づくる、と考えました。
その後、メアリー・エインスワースが1960年代から70年代にかけて理論を広げ、「安全基地」という考えを示し、乳児の愛着パターンとして、安定、回避、不安などを挙げました。彼女の研究グループは、乳児が養育者や見知らぬ人にどう振る舞うかを観察するストレンジ・シチュエーション法もつくっています。
この記事に関わるいちばん大きな転換は1987年です。シンディ・ハザン(Cindy Hazan)とフィリップ・シェーバー(Phillip Shaver)が、学術誌『Journal of Personality and Social Psychology』に「Romantic love conceptualized as an attachment process(恋愛を愛着の過程として概念化する)」を発表しました。この論文は、大人の恋愛も愛着の過程ではないかという可能性を探り、乳児期の三つのスタイル(安定、回避、不安・両価型)を、大人の恋愛にあてはまる形に置き換えました。あわせて、スタイルが続いていくのは、自分や人間関係についての心のモデルが一因ではないかと提案しています。二つの質問紙調査では、三つのタイプの大人は、恋愛の経験の仕方が予測できる形で異なっていたと報告しています。
のちの研究者は、自分についての見方と他者についての見方が、おおむね肯定的か否定的かによって、大人の愛着を「安定型」「不安型(とらわれ型)」「回避型(拒絶型)」「恐れ・回避型」の4つに分けて説明しました。ネット上の愛着スタイル診断の多くが下敷きにしているのは、この枠組みです。
大人の恋愛で見える、不安型愛着の姿
英語版Wikipediaの大人の愛着についての解説では、不安型(anxious-preoccupied)は、自分を否定的に捉え、他人を信頼することにも自信が持てないスタイルだと説明されています。親密さを求める一方で、相手は自分と一緒にいたくないのではないかと恐れ、関係のなかに承認を求める傾向があるとされます。連絡の遅れが心配や拒絶された感覚につながることがあり、関係が安定していても、その状態について不安になる人が多い、という説明もあります。
思い当たる人もいるかもしれません。少し連絡が途切れただけで、何かがおかしいという合図に見えてしまう。これは傾向の説明であって、人格への判定ではありません。同じ解説は、ほかのスタイルにもそれぞれ難しさがあると述べています。
重なるところ:心配、確認、安心のループ
重なりは実際にありますが、範囲は狭いものです。どちらの説明でも知られている、ひとつの繰り返しのなかにあります。
- 小さなことが起きる。既読がつかない、予定が変わる、誰かの名前が出る。
- 心が最悪の読み方を思いつき、体は胃のあたりの重さや落ち着かなさで応える。
- 確かめる、聞く、試す。もう一度メッセージを送る、SNSを見に行く、冗談めかして質問する。
- 返事や安心させることばで、ほっとする。
- 安心が薄れ、またループが動き出す。
日本語版Wikipediaは、俗語の側から同じつながりに触れています。メンヘラの項目には、精神疾患を抱えるには至らないものの、大人の不安型愛着スタイルで情緒不安定を抱える人々も、メンヘラと呼ばれることがあると書かれています。これはことばがどう使われるかの説明であり、二つが同じだという主張ではありません。
メンヘラ診断の4タイプも、このループの形を平易なことばで描いたものです。「確認したがり」は大丈夫だよと聞きたい人、「嫉妬アンテナ」は小さな変化に素早く気づく人、「尽くし込み」は行動で愛を伝える人、「試し行動」はわざと引いて反応を見る人です。ただし、これはエンタメ診断のタイプであり、愛着スタイルではありません。
違うところ
- 目的 メンヘラは会話のなかで使われ、ときに相手を突き放すために使われます。不安型愛着は、研究者がパターンを記述し、研究するための用語です。
- 由来 メンヘラは、メンタルヘルスの問題を抱える人を指す俗語として始まりました。不安型愛着は、ボウルビィとエインスワースの研究を土台にした愛着理論から生まれ、1987年にハザンとシェーバーが大人の恋愛に当てはめたものです。
- 範囲 メンヘラは、話す人によって意味が大きく変わり、Weblioも厳密な定義づけは難しいと述べています。不安型愛着は、近しい人との関わり方の、ひとつの特定のパターンを指します。
- 評価 メンヘラは、たいてい評価を伴って使われます。愛着スタイルは、欠点ではなく、描写のためのものです。
- 診断としての位置づけ どちらも診断名ではありません。メンヘラは通俗的な表現で、不安型愛着はスタイルです。愛着に関わる診断名としては反応性アタッチメント障害がありますが、これは幼少期に始まる別の問題で、大人の愛着スタイルとは別のものです。
スタイルは固定ではなく、診断でもない
丁寧に押さえておきたい点が二つあります。ひとつは、愛着スタイルは診断ではなく、その人が心の健康な状態かどうかを示すものでもないことです。近しい関係のなかでの傾向を描く方法にすぎません。
もうひとつは、人はスタイルのあいだを移り変わるということです。英語版Wikipediaのまとめによると、時間が経っても同じスタイルを保つ人は多い一方で、変わる人も少なくなく、そのため愛着スタイルは固定的な性格特性ではないとされています。なぜスタイルが変わるのかは十分に解明されておらず、否定的な出来事や状況の要因が、可能性として挙げられているだけです。特定の経験や相手が必ずスタイルを変える、と言い切ることはできませんし、この記事もそうは主張しません。
実際的な意味は控えめなものです。いま自分に見えるパターンは、今日についての情報であって、変わらない自己像ではありません。ループに気づけること自体が、動かせる部分になりやすいのです。
どのテストを使えばいいか
近しい関係での自分の傾向を、もう少し構造的に見たいなら、愛着スタイル診断のほうが向いています。上で説明した愛着の枠組みをもとにつくられているからです。一方、具体的な恋愛の場面で自分がどう反応するかを、もっと気軽に、遊びを交えて見たいなら、メンヘラ診断があります。15の短いシーンの質問で、4つの「重さのタイプ」のどれに近いかを示すエンタメ診断で、診断ではありません。
どちらか一つを選ぶ必要はありません。先に軽いほうを試し、結果に出た「安心を求めるループ」に気づいてから、愛着スタイル診断でより構造的に考える人もいるでしょう。俗語のほうを知りたい方はメンヘラとは何かを、行動そのものについては恋愛での安心の確認の記事を、あわせてどうぞ。
クイズでは助けきれないほどつらいとき
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